一杯のココアから始まる東京とシドニーをつなぐ温かい｢12色の物語｣をつづった短編集の一篇。本編は｢東京/黄色｣で、キャリアウーマンで仕事に専念していた｢私｣(朝美)は夫の｢輝也｣に家事･育児を任せていたが、数日間の夫の留守中に子どもの迎えや慣れない家事の難しさに直面する姿が描かれている。
軽快な文章で読みやすいが、いざ｢設問｣となると、｢心情｣を細かく丁寧に読み取る必要があるなど、なかなか一筋縄ではいかない。流石(さすが)本校といった大問だ。

以下、いくつかの｢設問｣を検証する。

[問一]　｢心情説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行｡１行＝30～35字程度。以下同じ)。傍線部(ア)｢振り返らずに私は、再び歩き出した｣について、ここでの｢『私』の気持｣を説明する。

先ずは｢傍線部｣から読み取れる｢心情｣を捉えたい。｢再び歩き出した｣ということは、何かが｢きっかけ｣でその場に止まっていたということであり、｢振り返らずに｣なのだからその場にいることがいたたまれなく、｢辛い心情｣だと判断できるはずだ。
次に前後から｢状況｣を確認する(｢同一場面の直前直後に根拠あり｣が｢小説｣の｢解法｣の大原則だ)｡夫の｢輝也｣が留守なので初めて幼稚園に子どもの迎えに来た｢私｣は｢緊張｣し、周りの他のお母さんたちは｢誰ひとり見覚えがなく｣て｢体をこわばらせ｣ていた。そして、ひとりのお母さんの｢パパ(＝｢輝也｣)来ないんだー｡……パパに会えるのかと思ったのに｣という｢あきらかにがっかりした声｣が｢きっかけ｣で､｢私は思わず足を止め｣たことが分かる。
こうした｢要素｣を｢辛い気持ち｣に結びつけるようにまとめていきたい(｢説明記述｣では｢最重要要素｣を必ず｢文末｣とすること。ここでは｢心情｣になる)｡たとえば、｢初めて幼稚園に子どもの迎えに来て､見覚えがないお母さんたちに緊張していた上に『パパ来ないんだー』という声がして、いたたまれなく辛い気持ち｡｣といった｢答え｣になる。
尚、本問に限らず何らかの｢きっかけ｣は｢小説｣ではとても大きな｢手がかり･ヒント｣になると心得よ。

＜時間配分目安：５分＞

[問二]　｢内容説明記述｣(字数指定なし。解答欄２行)。傍線部(イ)｢不遜な自分に気づく｣について、｢自分のどのような点を不遜だと感じたのか｣を説明する。

先ずは｢不遜｣の｢原意｣を正しく捉える必要がある(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡｢へりくだる気持ちがないこと。思いあがっていること｣という｢原意｣だ(やや難しい言葉だが、本校志望者であれば知っているはず)｡
次に｢きっかけ｣だ。直前から､｢私｣が｢輝也｣に｢出してあげる｣と言ったことだと分かる。何を？｢状況｣を確認する。前後から、｢お金を稼いでいない｣｢輝也｣に対して､｢稼いでいる｣｢私｣がお金を｢出してあげるから使いなさいよ｣と｢思わず｣言ってしまったこと＝｢不遜｣だと｢感じた｣と判断できるはずだ。こうした内容を｢過不足なく｣まとめていけばいい。
たとえば、｢お金を稼いでいない輝也に対して思わず言ってしまった､お金を『出してあげる』という言葉には稼いでいる自分が優位だという気持ちが出ていた点｡｣といった｢答え｣だ。本校では、｢知識問題｣ではなくとも相応の｢語彙力｣が求められていると覚悟する必要がある。

＜時間配分目安：5分＞

[問四]　｢心情変化説明記述｣(字数指定なし。解答欄４行)。傍線部(エ)｢絵なんか売れないで。誰にも認められないで｣と､傍線部(オ)｢輝也の絵、たくさんの人に見てもらえるといいね｣について、この｢気持ちの変化｣を説明する。

｢心情変化｣では当然、｢Ａ→Ｂ｣といった具合に｢変化｣を明確に把握しなければいけない。ここでは｢輝也の絵｣について、｢売れないで。認められないで｣→｢たくさんの人に見てもらえるといいね｣と真逆に｢変化｣していることがすぐに判明する。つまり、｢輝也の絵｣が｢売れて認められること｣に対して､｢応援したくない｣という｢心情｣から｢積極的に応援したい｣という｢心情｣に｢変化｣しているのだ。なぜそのように｢変化｣したのか？それぞれの｢状況｣を確認する。
傍線部(エ)の部分では、｢輝也｣が絵以外で稼いでいることを知った｢私｣は｢家計を支えているという自負｣が崩れ、｢私がこの家にいる意味は何か｣と考え始め、｢どうしよう、家にいてくれなくなったら｣と､とても｢不安｣になっている｢状況｣だ。
一方、傍線部(オ)では、｢卵焼き｣もうまくできない｢私｣に対して｢輝也｣が｢がんばったね｡素敵なお母さんじゃないか､……｣と言ってくれ、｢ぽっかり空いてしまった穴が、じわじわ埋まって満たされ｣｢私の居場所を作ってくれたように思え｣ている。こうした｢状況｣の｢変化｣が｢心情変化｣につながっているわけだ。あとは､的確にまとめていけばいい。
たとえば、｢輝也が絵以外で稼いでいることを知った『私』は家計を支えているという自負が崩れ､居場所がなくなる不安から輝也の絵を応援したくなかったが、卵焼きもうまくできない『私』に輝也が優しい言葉をかけてくれ、空いてしまった穴が埋まり居場所ができたように思えて､積極的に応援したいという気持ちへと変化した｡｣といった｢答え｣になる。
｢心情変化説明｣は本校の定番だ。｢状況変化｣を踏まえて的確に｢説明｣できるようにしておくこと。

＜時間配分目安：8～9分＞

｢北海商事｣が行った｢安田デパート｣の｢新宿支店｣と｢池袋支店｣での｢北海道物産展｣における､｢カニ弁当｣の｢仕入れ販売｣の成果について｢販売部長｣が｢社長｣に報告した文章。両支店での｢時間毎｣の｢売れ行き総数の推移｣を示す｢折れ線グラフ｣が添えられている。
本校の｢国語｣としては初の、｢グラフ読み取り｣を含めた設問となっている。戸惑った受験生が多かったかも知れないが、｢社会｣の｢資料読み取り問題｣を踏まえればいいわけだ。
いずれにしても、前述のように新たな大学入試制度を見据えた大問であり、新傾向として来年度以降に向けても準備をしておきたい。

以下、具体的に確認したい。

[問一]　｢表現についての抜き出し｣(全２問､字数指定なし)。｢社長｣は｢部長の報告｣を聞いて、｢客観性に欠ける｣と伝えているが、｢部長の報告のどの表現に、客観性に欠けたものを感じた｣のか、｢なるべく短い字数｣で｢二つ｣抜き出して答える。どのように考えればいいのか？

｢客観性に欠ける｣ということは｢主観的｣な｢表現｣が含まれていることになる。｢部長の報告｣を確認する。｢折れ線グラフ｣と照合すると､一見｢客観的な報告｣だと考えられる。だが、細部を注意深くチェックすると、｢新宿支店｣で販売を担当した｢大西社員｣について｢見事にカニ弁当は完売｣との｢表現｣がある。｢見事に｣という｢副詞｣は無論、｢部長｣の｢主観的感想｣となる。
また、｢池袋支店｣については｢20個の売れ残りが生じてしまいました｣と｢表現｣している。ここでの｢(～て)しまう｣という｢補助動詞｣は､｢残念だ｣という｢主観的な思い｣が含まれていることが分かるはず。したがって、｢見事に｣と｢しまい(ました)｣が｢答え｣だ。本校ならではのユニークな問題だ。細部にこだわる｢表現力｣の把握が求められている。

＜時間配分目安：2分＞

[問二]　｢条件付き内容説明記述｣(全４文､字数指定なし。解答欄各１行)。｢社長｣は｢500個｣を完売した｢新宿支店｣の｢大西社員｣よりも、｢450個｣を発注し｢20個｣の売れ残りが生じた｢池袋支店｣の｢小西社員｣の方を｢高く評価｣しているが、このような｢社長の考えとはどのようなものか｣を説明する。

｢条件｣は､｢たしかに｣｢しかし｣｢一方｣｢したがって｣の｢四つの言葉をこの順に、文の先頭に使って、四文で説明｣すること。さあ、どうするか？
｢500個完売｣よりも｢20個売れ残りで430個｣の方を｢高く評価｣するとはどういうことか？問題文には｢支店規模の問題ではない｣という｢社長の言葉｣以外に｢手がかり｣はない。とすれば、｢グラフ｣に鍵があるはずだ。
｢社会｣での｢資料読み取り｣のように、細部に着目して特徴をつかみたい。｢池袋支店｣では、販売開始の｢９時｣から終了の｢19時｣まで、すべての時間帯で｢売れ行き｣が伸びているのに対して、｢新宿支店｣では、｢18時｣の段階で仕入れた全ての｢500個｣を｢完売｣し、｢19時｣までの１時間は｢品切れ｣状態になっている。
つまり、予想を読み違え、伸びるはずの｢売れ行き｣を逃がし、客の期待にも応えられない状況となってしまっていたのだ。こうした特徴から｢社長の考え｣を説明していくわけだが、まとめ方は当然、｢条件｣が｢ヒント｣となる。｢たしかに｣｢しかし｣＝｢大西社員｣⇒｢一方｣｢したがって｣＝｢小西社員｣といった具合だ。
以上のようなことから、たとえば次のような説明ができるはずだ。｢(たしかに)大西社員の新宿支店では500個を完売して売れ行き総数も多い｡｣｢(しかし)閉店前１時間は品切れ状態で、売れ行き予想を読み違えていた｡｣｢(一方)小西社員の池袋支店では品切れがなく、最後まで売れ行きを伸ばし続けた｡｣｢(したがって)小西社員の方が的確な予想をし、客の期待にも応えていたという考え｡｣といった｢答え｣だ。
意表を衝く設問に対しても、臨機応変に｢思考｣して、｢判断｣を下し､的確に｢表現｣することが肝要になる。

＜時間配分目安：7～8分＞

｢総合的知識問題｣｡｢熟語の完成｣の｢空所補充漢字記述｣(全５問)。他校では散見される｢漢字パズル｣のような｢知識問題｣だが、本校では珍しい。
[例題一]｢安(　　)理｣⇒｢答え｣＝｢心｣(｢安心｣と｢心理｣)のように、｢上の漢字から続いて二字熟語を作り、下の漢字へ続いて二字熟語を作ることのできる空所に入る漢字｣をそれぞれ答える。ただし、[例題二]｢劇(　　)所｣⇒｢答え｣＝｢場｣(｢劇場｣と｢場所｣)のように、その｢漢字｣が｢異なる読み方｣([例題二]では｢じょう｣と｢ば｣)になる場合もある。

各問を検証していく。

[問題①]｢状( ① )度｣⇒｢答え｣＝｢態｣(｢状態｣と｢態度｣)｡

[問題②]｢下( ② )順｣⇒｢答え｣＝｢手｣(｢下手｣と｢手順｣)｡

[問題③]｢意( ③ )式｣⇒｢答え｣＝｢図｣(｢意図｣と｢図式｣→｢いと｣｢ずしき｣)｡

[問題④]｢辺( ④ )目｣⇒｢答え｣＝｢境｣(｢辺境｣と｢境目｣→｢へんきょう｣｢さかいめ｣)｡

[問題⑤]｢博( ⑤ )別｣⇒｢答え｣＝｢識｣(｢博識｣と｢識別｣)｡

尚、ここでの｢答え｣は一例で、他にも｢熟語｣が完成するかも知れないので、各々チャレンジをしてみよう。