本作品は、古書店街である東京の神田神保町を舞台に、ひとりの女性の成長をユーモラスな筆致で描いた物語。職場恋愛に失敗し、恋人と仕事を失った「わたし」(貴子)は、叔父のサトルが経営する古書店を住み込みで手伝うことになった。
本文は、仕事にも街にも慣れ始めた頃の場面。「オノマトペ」「慣用句」といった「知識」、江戸川取手おなじみの「抜き出し」もこの大問では難なくこなせるはず、ただ、「選択肢」で若干悩むかも。２問だけ考えてみたい。
 
【問五】内容説明の選択肢
傍線部(４)の「一つのこと」とは「どのような活動」を指しているかを答える(４択)。
先ずは「原意」で考えたいが(「原意絶対優位の原則」＝「設問」「傍線部」等の「原意」、要は「本来の意味」を最優先に考えること)、この傍線部だけではどうにもならない。そこで、「傍線部一文一部の法則」(傍線部が一文の一部分の場合、傍線部以外が重要ということ)を使う。
直前に「接点のないように思えた人と」、直後には「結びつけることの喜び」とある。つまり、「一つのこと」によって「人」と「結びつく」ことができたということ。何をしたのか？ 「小説」は「同一場面の直前直後に根拠あり」(「小説」の「最重要解法」)。さらに、前を確認する。「わたしたち」は「その本」について「語りあった」のだ。さあ、「選択肢」を「消去」する(「選択肢設問」は「消去法」が大原則)。
(イ)「あいさつ」と(エ)「店番」は即「消去」で当然。残りは、(ア)「会話」と(エ)「読書」、「その本」について「語りあった」のだから、どちらも当てはまる。そう、「正しいもの」を「選ぶ」となると「選べない」のだ。だからこそ、「消去」する。「どっちがよりダメか？」ということ。無論、具体性に欠ける(ア)の「会話」を「消去」する。
江戸川取手では「選択肢」の説明が極端に簡潔な場合がある。長すぎても紛らわしいが、短すぎても判別しがたい。従って、「消去法」に徹することが重要。難易度：Ｃ(「難解」。以下同じ)。
＜時間配分目安： 2分程度＞

【問六】内容説明の選択肢
傍線部(５)の「時を越えた出会い」とは「どのような人びと」との「出会い」なのかを答える(４択)。
「原意」は使えないので、「傍線部一文一部の法則」、直前は「そうした」という「指示語」なのですぐ開く(基本的「解法」のひとつ)。「古本」の中に入っていた「押し花の栞」のことだ。前問同様、「選択肢の説明」が短い。(イ)「本の読者たち」と(ウ)「本の登場人物たち」で悩むかも。さらに、直前を確認する。「どんな人が」「どんな想いで」「挟んだのだろう」とある。となれば、当然「答え」は(イ)「本の読者たち」となる。
やはり、「解法」に則して解くことだ。難易度：Ｂ(「標準」。以下同じ)。
＜時間配分目安： 2分程度＞

大学等で行われた筆者の講義・講演を再構成したエッセイ集。
時代状況に対する作者の危機感がひしひしと伝わってくる内容。
本文では、多くを吸収できる若い時期に、「読書」や「映画鑑賞」を通して自分を「客観的に眺められる能力」を磨くべきだと説いている。
「講義・講演録」なので段落関係がつかみづらく、特に「抜き出し」の「範囲特定」には苦労するので要注意。以下、２問について検討してみよう。
 
【問二】指示語換言の抜き出し
傍線部(１)の「こういう場所」とは「何のことか」を答える(８字指定)。
「指示語」なので直前から確認していく(「指示語が出たら前を見よ」が大原則)。すぐに、「そこに逃げ込めば」の「そこ」だと分かる。
「二重指示語」だ(「二重・三重……指示語」は当然、全て開く)。さらに、戻る。「そこ」＝「小説を書くということ」となる。これが「答え」か？ 「代入確認」する(「指示語」では「形式」「内容」について必ず「代入確認」しなくてはいけない)。「小説を書くということ」が「人間には必ず必要」となる。「形式」には当てはまるが、「内容」的には不適切だと分かる。この部分は「私にとって」(＝「筆者」にとって)という「具体例」だ。「指示語」部分は「一般論」、また、戻る。「自分ひとりの時間を持つだけの余裕」となっている。「指定字数」にあわせると「自分ひとりの時間」。ここで、一瞬、悩まなくてはいけない。なぜなら、「こういう『場所』」＝「自分ひとりの『時間』」となってしまうからだ。改めて、傍線部(１)の直前を確認すると、「ホッと息をつける」とある。ということ、「場所」は「ホッと息をつける」に対応した一種の「比喩」ということだ。従って、「内容」としては問題ない。よって、「答え」となる。
「指示語問題」では、直前から順にたどっていき、「条件」に合致して「代入確認」も問題ないものを「答え」とすること。難易度：Ｂ。
＜時間配分目安：3分程度＞
 
【問八】換言説明の抜き出し
傍線部(６)の「一人称」で「書く」とは「どのようにして書くことか」を答える(15字指定)。
「条件」は「傍線より前」。当然、先ずは「原意」だが(「原意絶対優位の原則」)、傍線部だけでは「内容」はつかめない。
次は、「傍線部一文一部の法則」。直前は「その時に」(指示語が出たらすぐ開く)＝「自分を主人公にした小説を書かせる時」、直後は「書かせないように」となっている。つまり、「一人称で書く」ことはしてはいけないこと。どのような書き方か？ ここは「具体例」の段落なので、「一般論」の段落から抜き出すことになる。
「段落相互関係」が分かりづらい文章だが、何とか「前段落」だと判断したい。確認すると、「自分がどう思っているか、を書く」「のではなく」とある。「指定字数」にも合致する。これが「答え」だ。
徹頭徹尾、「解法」に則して考えること。難易度：Ｂ。
＜時間配分目安： 2分程度＞

「科学的無知、思考停止ほど危険なものはない！」「横行する非科学に騙されるな！」。本書は、理系作家による科学的思考法入門書。
本文では、現代社会において科学を避けることはほとんど不可能であり、目を背けることは不利益で危険だ、と論じている。「入門書」だけあって「論説文」にしては読みやすく、「内容」も理解しやすい。
「漢字問題」「抜き出し」に江戸川取手らしさがあり、最後には無論、「要約記述」が立ちふさがっている。以下、いくつか検証してみる。
 
【問一】漢字の読み書き
「文中」の語句なので、「文脈」から判断する必要がある。
「書きとり」は基礎的なものばかりだが、「読み」はどうか。
傍線部(エ)「大袈裟(に避けている)」＝「おおげさ(に避けている)」、傍線部(オ)「虜(になっていた)」＝「とりこ(になっていた)」など、読めそうで読めないかも。
やはり、江戸川取手では「高度な語彙力」も求められている。難易度：Ｂ。
＜時間配分目安： 1分＞
 
【問四】具体的換言の不適切説明選択肢
傍線部(２)「支配的な意味を持つ」の「具体的な説明」で「ふさわしくないもの」を答える(４択)。
問われているのは「具体的」、それに対し傍線部は「一般的」なので、「原意消去」は不可能。「傍線部一文一部の法則」の出番。直前に「ほとんどの人たち」にとって「文と理はときとして」とある。つまり、「文系と理系」⇒「支配的な意味を持つ」ということ。
その「内容」はどこで説明されているか？ 「段落相互関係」で考える(「論説文」の「本論」では「段落相互関係」がポイント、これも基本的「解法」のひとつ)。本段落後半から次の４段落で「具体的説明」がされている。そこから、「選択肢」を「消去」していけばいい。「範囲」が限定されたので、すぐに「(エ)」が「不適切」＝「答え」と分かるはずだ。
ここでも、「設問条件」対応した「解法」を用いることで解けるということ。難易度：Ｂ。
＜時間配分目安： 2分程度＞
 
【問七】条件付き換言説明の抜き出し
傍線部(５)「防災」について、「筆者の主張する科学的な防災」とは「どうすることか」を答える(28字指定で、「最初の５字」を答える)。
残念ながら、この「条件」では「原意」も「傍線部一文一部」も使えない。となれば、「段落相互関係」だ。「防災」については次段落以降で説明されている。
最初の段落の最後に「きちんとデータを分析し、そこから予測し、次の手を打つこと」とある。「内容」も「字数」も合致する。従って、「きちんとデ」が「答え」となる。
「解法」に慣れてしまえば、瞬時に分かる。難易度：Ａ(「平易」)。
＜時間配分目安： 1分程度＞

【問十】条件付き換言説明の抜き出し
本文中《　》内の文章を「要約」する(80～100字以内指定)。
「条件」は、「科学離れ」「科学の楽しさ」「危険」の３語を入れること。江戸川取手では避けて通ることのできない「最後の関門」。ここをクリアしなければ、門はくぐれない。ただ、恐れることはない。「範囲指定」があることと「３語を入れる」という「条件」は例年同じだ。「対策」は十分可能。
先ずは、「要約」の基本。「要約」とは「要点をつないだもの」、具体的には各「形式段落」の「中心文」をつなぐということだ。「論説文」では「論旨中心」にまとめるのだが、「範囲指定」があるのでここでは無関係。本問で考える。「範囲」は最後の３つの「形式段落」。「中心文」は通常、各「段落」の「最初」と「最後」か、その両方。最初の「段落」では、「こういった『科学離れ』については、昔から問題意識はあった」＋「『科学の楽しさ』を子どもたちに知ってもらいたい」という言葉を聞くたびに、『楽しさ』を押しつけている姿勢を感じずにはいられない」。
次の「段落」は、「もはや、好きとか嫌いで片付けられるものではない」(この「段落」は「最初」が「具体例」なので、「最後」だけ)⇒何が？＝「科学を避けること」。最後の「段落」は、「この本に書いた意見は」→「科学から目を背けること」は「貴方にとって不利益」で「社会にとっても『危険』だ」。「中心文」を抜き出してみた。もう気づいたはず。「条件」の「３語」全てが見事に登場している。要は、「条件の３語」＝「ヒント」であって、もし「中心文」が分からなかったら、その「３語」を手がかりにすればいい。
さて、本問では上記の「中心文」を字数に合わせてつなげばいい。ただ、ひとつだけ注意を要するのは、最初の部分が「こういった『科学離れ』」という「指示語」だということ。当然、「指示語」をそのままにはできないので必ず開くこと。ここでは、「前段落全ての内容」(「段落冒頭」の「指示語」は「前段落全ての内容」を指し示す)。簡潔に示せば、「科学を知らなくても恩恵を受けられるという意味」での「科学離れ」ということ。
「要約」とは何かを正しく習得しまとめ方の「解法」を応用できれば、江戸川取手の「鬼門」は「入学の門」になる。難易度：Ｃ。
＜時間配分目安： 6～7分程度＞