｢自己･欲望･思想｣の｢機械｣になった人間は、その機械的な行動の愚かしさを合理化しようとするために、｢美しい｣｢もっともらしい｣思想的偶像を捏造(ねつぞう)する――これはあらゆる戦争を通じて見られたことで､そのとき最も明瞭に現れてくると論じている。

本文では、｢現代の科学･機械文明｣は人間を｢増上慢(自分を過信して思い上がること)｣に陥れているので、｢人間の分限｣を自覚する｢科学のヒューマナイゼーション｣の流れを失わない方がよいと、警鐘を鳴らしいる。｢哲学用語｣で難解なものが多く、｢内容｣も捉えづらい。しかも、｢説明記述｣は一筋縄ではいかないものばかりで悩ましい。以下、いくつかを検証する。

[問一]　｢換言説明記述｣(｢字数指定｣なし。｢60字ほど｣の解答欄)。

傍線部①の｢『文明人』｣とは、｢どういう人々のことか｣を説明する。
｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣(｢傍線部(空所部)が一文の一部分だった場合、傍線部(空所部)以外が重要｣という｢重要解法｣)で｢手がかり｣を確認する。直前は、｢こうした『モデルニテ(現代性)』の獲得だけを『文明』の進歩と考える『文明人』｣となっている。｢こうした｣という｢指示語｣があるので開く(｢指示語｣が出たらすぐに開くこと)。

前文から､｢機械の利便によって時間空間にのさばり出、今までの人間とは全く異なった人間になったように見られる『モデルニテ』｣だと分かるはず。
つまり、｢文明人｣＝｢機械の利便によって時間空間にのさばり出、今までの人間とは全く異なった人間になったように見られる『モデルニテ』を獲得することだけを『文明』の進歩と考える人々｣だ。

あとは､｢内容｣を調えて｢過不足なく｣まとめていきたい。
たとえば、｢機械の利便により時空間にのさばり出、今までの人間とは全く異なった人間になったと見られる現代性だけを文明の進歩と考える人々。｣といった｢答え｣になる｡
｢解法｣を的確に用いて論理的に考えていくこと。

＜時間配分目安：３分＞

[問三]　｢理由説明記述｣(｢字数指定｣なし。｢60字ほど｣の解答欄)。

傍線部③の｢右のごとき実験も根拠がないわけはない筈(はず)｣と言えるのは､｢なぜか｣を説明する。
先ずは、｢傍線部(空所部)一文一部の法則｣に｢手がかり｣を求める。直前に｢我々の生活の条件が変化すると、物の見方や考え方まで変わってくる以上｣とある。ここでの｢～以上｣は｢～だから｣と同義なので、｢直接的理由｣だと判断できるはずだ。

次に、｢右のごとき実験｣を｢同一意味段落｣で確認する(｢論説文｣｢説明文｣では｢同一意味段落｣に｢根拠･手がかり｣がある)。
｢同一意味段落｣の前半から、｢地上のものを下に見られる猿の習性は、地上生活を常としている我々の心理とどのような差異があるのかを研究｣する｢実験｣だと読み取れる。ということは、｢我々の生活の条件が変化すると、物の見方や考え方までもが変わってくるから、習性の異なる猿との心理の差異を研究する実験には根拠がある｣のだ。

｢理由説明｣としては｢直接的理由｣を｢文末｣としてまとめていくことになる。
たとえば、｢人間とは習性の異なる猿の心理を研究する実験でも、生活条件の変化で物の見方や考え方まで変わってくる以上､根拠となり得るから｡｣といった｢答え｣だ｡

｢説明記述｣では、｢最重要要素｣(｢理由説明｣では｢直接的理由｣)を必ず｢文末｣とせよ。そうでないと｢不正解｣となってしまうと心得よ。

＜時間配分目安：３分半＞

[問四]　｢換言説明選択肢｣(５択)。

傍線部④の｢この自覚の喪失｣とは､｢どういうことか｣を答える。
｢選択肢設問｣は｢消去法｣が原則｡先ずは｢原意消去｣をしたい(｢原意絶対優位の原則｣＝｢設問｣｢傍線部｣等の｢原意｣、要は｢本来の意味｣を最優先に考えること)｡

各選択肢の｢文末｣を確認して(｢選択肢｣の説明で最も重要な要素は｢文末｣に記されている)､｢喪失｣の｢原意｣と結びつかないものを｢消去｣したい。
確認する。(ア)｢気が付いていない｣、(イ)｢忘却している｣、(ウ)｢見失っている｣、(エ)｢忘れられている｣､(オ)｢意識していない｣｡
無論、｢喪失｣＝｢なくすこと。失うこと｣なのだから、(ウ)以外は｢消去｣できるはずだ。

念のために、｢この自覚｣という｢指示語内容｣を確認しても、特に誤ってはいない。よって、｢答え｣は(ウ)でよい｡何と｢一発消去！｣だ。｢原意消去｣の活用は必須だ。

＜時間配分目安：１分以内＞

[問六]　｢漢字の書きとり｣(全５問)｡

例年と比較するとやや難しいが、基本的には平易なものばかり。
注意したいものをあえて挙げれば､
(Ｂ)｢強大な力ができたかのごとくゴサンし｣＝｢誤算｣⇒｢文脈｣をしっかりと把握すること、
(Ｄ)｢変化のユライ｣＝｢由来｣⇒信じ難いが、昨年度と同じ｢熟語｣が出題された！　
(Ｅ)｢極めてジミな人間の声｣＝｢地味｣⇒｢同音異義語｣に要注意｡

本校志望者であれば、一気呵成に｢全問正解｣することが求められる。

＜時間配分目安：１分＞

懐かしくも新鮮な｢歌｣の数々は､私たち日本人の感性の源として永遠に伝えていくべき豊かな財産である――｢日本人ならこれだけは知っておいて欲しい｣という｢近代100首｣を､当代随一の歌人である筆者が選んだ｢未来へ贈る名歌集｣｡

本文では、｢若山牧水｣の｢かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな｣という一首について、筆者なりの解釈を説明している。

｢文章内容｣は理解できるだろうが、｢歌意｣を読み取ることは至難の技で、全て｢説明記述｣の設問も曲者ぞろい。以下、２問だけ考えてみる。

[問一]　｢条件付き内容説明記述｣(｢字数指定｣なし。｢60字ほど｣の解答欄)。

傍線部①に｢直前の一首｣を｢踏まえての鑑賞｣とあるが、そうすることで｢冒頭の短歌はどのような歌として鑑賞されることになるか｣を説明する。
｢条件｣は｢直前の一首をどのように踏まえるかを示す｣こと。実はこの｢設問｣､相当に意地悪だ。傍線部の最初と最後だけを記していて、肝心の｢直前の一首｣が抜け落ちている。先ずはそれを確認する。｢胡桃とりつかれて草に寝てあればあかとんぼ等(ら)が来てものをいふ｣という歌だ。

次に、｢同一意味段落｣から｢文脈｣を読み取る。
｢かたはらに秋ぐさの花かたるらくほろびしものはなつかしきかな｣という｢冒頭の短歌｣について、多くの評者は｢秋草の野に寝ておれば｣と書き始めることに関して、｢直前の一首｣を｢踏まえての鑑賞｣だと述べていると分かるはず。
つまり、｢胡桃とり｣の一首を｢作者が秋草の野に寝ころんでいる｣姿勢だと踏まえて、｢かたはらに｣の一首も同様に｢寝ころんで｣､｢秋ぐさの花｣が｢かたる｣ことを聞いている歌として｢鑑賞｣されるということになる。

こうした内容を｢条件｣に応じて、分かりやすくまとめていきたい。
たとえば、｢直前の一首の野に寝ころんでいる姿勢を踏まえ、作者は寝ころんで秋ぐさの花がかたることを聞いている歌として鑑賞されることになる｡｣といった｢答え｣だ｡

｢不完全な設問｣という意地悪さに決してめげてはいけない。尚、｢条件｣には的確に応じることが肝要。

＜時間配分目安：３分半＞

[問三]　｢条件付き換言説明記述｣(｢字数指定｣なし。｢60字ほど｣の解答欄)。

傍線部③にある｢かすかな負への志向｣が｢共感のもとにな｣るとは｢どういうことか｣を説明する。
｢条件｣は｢この短歌に即して説明する｣こと。[問一]同様に、傍線部の一部が欠落している。全体は｢そのかすかな負への志向が､人々をこの一首へ向かわせる共感のもとになっているのかもしれない｣となっている。
２つの｢指示語｣を開く。｢そのかすかな負への志向｣＝｢うしろを向きたがる己の性向を肯定してやりたいといった趣｣､｢この一首｣＝｢牧水の一句『ほろびしものはなつかしきかな』｣だと判断できる。

では、なぜ｢牧水自身の負への志向｣が人々の｢共感のもと｣になるのか？
　｢同一意味段落｣を確認すると次段落に､｢そのとき(＝人々の共感のもとになるとき)に、牧水の個別事情は不要｣｢誰もが、自分の文脈で受けとめられるだけの一般性をもつ｣とある。｢要素｣はそろった｡

整理して、｢過不足なく｣まとめていく。
たとえば、｢『ほろびしものはなつかしきかな』にある､うしろを向きたがる己の性向を肯定たい趣は、誰もが共感できる一般性をもつということ｡｣といった｢答え｣だ｡

｢解法｣に則して｢文脈｣をたどっていくことが重要だ。

＜時間配分目安：３分半＞

鎌倉時代の代表的説話集。全15巻で197話を収録。
｢今昔物語｣と共通のものも多いが、｢仏教説話｣の他、｢人間滑稽譚｣など民話風な説話も多い。本文は、巻十一の｢丹後守保昌、下向の時致経の父に逢ふ事｣｡

本年度は｢内容解釈｣の問題がほとんど。他は｢仮名遣い｣のみだ。以下、２問だけ検討してみよう。

[問一]　｢内容換言記述｣(｢字数指定｣なし。｢10字ほど｣の解答欄)。

傍線部①｢うち入りて立てたりける｣について、｢何をそうしたのか｣を答える。
先ずは、傍線部を｢品詞分解｣して正確に｢現代語訳｣する。｢うち＝『強意』の接頭語/入り＝四段活用動詞『入る』の連用形/て＝接続助詞/立て＝下二段活用動詞『立つ』の連用形/たり＝『完了』の助動詞『たり』の連用形/ける＝『過去』の助動詞『けり』の連体形｣で、｢さっと入って立ててしまった(こと)｣という訳になる。

で、何を｢立ててしまっていた｣のかだ。前後の｢文脈｣を確認したい(こうした考え方は無論、｢現代文｣と同じだ)｡
｢立ててしまった｣のは｢白髪の武士｣で、そのことに対して、通りかかった｢国司の郎党ども(家来たち)｣が直後で｢この翁､など(なぜ)馬よりおりざるぞ｣ととがめている。ということは、｢白髪の武士｣が｢立って｣いる｢馬｣に｢乗ったまま｣だという状況が分かるはずだ。よって、｢答え｣は｢馬｣だ。

｢古文｣であっても、｢現代語訳｣の後は｢現代文｣と同じように｢文脈｣を読み解いていくことになるのは当然だ。

＜時間配分目安：１分半＞

[問二]　｢仮名遣いの変換記述｣。

傍線部②｢立てやう｣を｢現代仮名遣い｣を用いて､｢すべて平仮名｣で答える。
誰もが知っていなくてはいけない｢歴史的仮名遣い｣の基本だ。｢母音｣と｢母音｣が直接つながった場合の変換の問題だ。｢立てやう｣の｢やう｣は｢yau｣で｢a･u｣となっているので、｢a･u｣→｢ou｣→｢o｣⇒｢yo｣、よって、｢答え｣は｢たてよう｣となる。尚、｢母音が直接つながった場合｣では他に､｢i･u｣→｢yu｣､｢e･u｣→｢yo｣がある｡また、｢語頭｣以外の｢は･ひ･ふ･へ･ほ｣⇒｢わ･い･う･え･お｣となるのも頻出だ。

｢歴史的仮名遣い｣については、本校に限らず｢古文｣の｢基本的常識｣なので、必ず定着させておくこと。

＜時間配分目安：30秒＞