「分厚いテキスト」「多人数クラス」日能研でつまずきやすいポイント
全国に校舎を展開し、日本最大級の規模を誇る日能研。歴史に裏打ちされたテキストには安定感があり、豊富な受験データと、復習に軸を置いたカリキュラムを特徴としています。
日能研に通うお子さんには、どのような学習サポートが必要なのでしょうか。中学受験のプロフェッショナルである塩津先生、小池先生、長塚先生にお話しいただきました。
(聞き手:フリーライター 井上マサキ)
インタビュー 目次
Professional of Leaders’Brain
塩津先生
■プロフィール
應義塾大学卒
“わかったつもり”を見逃さない徹底した足固め指導を重視し、親子共に最後に達成感を感じられる受験へと導きます。
Professional of Leaders’Brain
長塚先生
■プロフィール
千葉大学卒
「できないこと」よりも「できたこと」に焦点を当てながら上手に褒め、生徒のやる気を引き出す指導を心掛けています。
Professional of Leaders’Brain
小池先生
■プロフィール
横浜国立大学卒
楽しく軽快でテンポの良い授業で、わからなかったことが、いつの間にか不思議と理解できるようになっていきます。
塾に行って帰ってくるだけの「お客さん」になっていないか
――日能研に通われるご家庭からは、どのような相談をされることが多いのでしょうか。
長塚:大手進学塾に通われているご家庭からご依頼いただく場合、「塾のクラスをもっと上げたい」と要望いただくことが多いのですが、日能研の場合は、クラス分けよりも「成績を上げたい」「志望校に合格させてほしい」という声が多いですね。
小池:今でも、小テストによる順位付けなどはあるようですが、他の塾に比べて競争心をあおるようなことはほとんどないですよね。カリキュラムも比較的ゆったりしていますし、スポーツや習い事といった課外活動と併用しやすいこともメリットかと思います。入試に面接が設けられている場合、勉強以外のこともアピールできますから。もちろん、他の塾でもスポーツを続けているお子さんもいるのですが、かなり疲弊されているケースもありますので…。
塩津:ただ、カリキュラムがゆったりしている分、全体の勉強量が少し減るので、難関校を目指すとなるときびしくなるかもしれません。いわゆる、御三家などの難関校はSAPIXなどが実績を上げていますし、塾として打ち出すコンセプトが、徐々に難関校から中堅校へと変わってきていると感じます。
長塚:確かに、他の塾に比べて生徒さんにも余裕がありますよね。「何が何でも難関校に」ではなく、同じNバッグを背負った友達と仲良く勉強している感じです。1クラスの人数が多いので、それだけ友達意識、仲間意識が強いのでしょう。
小池:うれしそうに、「あの子と同じ学校を受けるんだ」と言われたことがありますよ。同じ学校を受けるならライバルでは…とも思いましたが(笑)。
長塚:それは悩ましいですね(笑)。でも、クラスの人数が多いということは、裏を返せば「怠けやすい」ということでもあります。少人数のクラスより、緊張感が格段に減りますから。塾側からのフォローも、必ずしも行き届いていないと感じますし。
小池:そうですね。塾に行って帰ってくるだけの「お客さん」になっていないかどうかは、気にすべきポイントだと思います。「塾に行っているのに結果が出ない」と依頼を受けて、お子さんと話してみると、やはり授業を聞いていないケースが多いですね。
塩津:そういうときは、いつもどうされていますか?
小池:受験まで残された期間を逆算して、一歩一歩積み上げていくしかないですね。これは、私が担当した範囲での話ですが、日能研の生徒は勉強が楽しくなるようにフォローしていくと、一人で伸びていくんです。日能研のカリキュラムと同様に、家庭教師としてもゆとりを持って接するのが有効なのかもしれません。
電話帳のようなテキストをどのようにこなすか
――日能研のテキストやカリキュラムには、どのような特徴があるのでしょうか?
小池:そうですね、細かい改訂はあるにせよ、基本は昔からほとんど変わっていないと思います。日能研は全国展開されていますから、各地方で広く使える内容になっているのでしょう。
長塚:日能研のテキストは、冊数が少ない分、1冊が厚いですよね。過去の入試問題集の「日特」に至っては、電話帳くらいの厚さがありますし。
小池:厚さに圧倒されて、「これを全部やるんですか」と聞かれることもありますね。もちろん、いきなり全部をやるのではなく、押さえるべきところから少しずつ進めていきます。主観ですが、最初は10あるうちの3できればいいかなと。そこから繰り返し学習することによって、6割、9割と階段を上るようにサポートすると、勉強に取り組んでもらいやすいですね。
塩津:先程、話に出たように、日能研のお子さんはゆったりしている傾向がありますから、あまり最初からあれもこれもと積み上げると、逆効果ではないかと思います。ハードな塾が耐えられなくて転塾してきたというケースもありますから。
――宿題についてはいかがですか?
小池:宿題も他の塾に比べて、そこまで大量ではありませんよね。とはいえ、授業の進め方は、校舎によってだいぶ違います。
塩津:日能研は、校舎ごとのカラーが出やすいんですよね。宿題だけでなく、テキストの使い方も異なりますし、中には自分でプリントを作って配布する先生もいる。重点校とそれ以外の校舎で、温度差がはっきり出ている印象があります。
長塚:親御さんは、1つの校舎しか知りませんから、カラーの違いについてはご存じない方も多いかもしれませんね。
小池:同じ日能研だと思って、お子さんに「こういうプリントが配られていると思うんだけど」と、ほかの子がもらったプリントを見せてみたら、「そんなのやってません」と言われたことがありますよ。「日能研」とひとつにくくるのではなく、この校舎や教室は何を目的として授業を行っているか、きちんと情報を入れながらフォローするようにしています。
合格をイメージし、やる気を引き出す「メンタルのケア」
――日能研に通うお子さんと接する際に、意識されていることはありますか?
長塚:日能研は生徒数が非常に多いだけあり、さまざまな学力の子がいます。受験に前向きな子ばかりではなく、勉強が苦手な子がイヤイヤ通っていることもありますよね。学力のケアに加え、やる気を引き出すようなメンタル面のケアも大切ではと思います。
塩津:やる気を引き出すのは難しいですね…。「こうすればやる気が出る」という普遍的な方法は存在しないので、なおさらです。合格したらこんな良いことがあるとか、具体的なイメージを伝えて、がんばってもらうくらいでしょうか。
長塚:良いイメージを持ってもらうには、叱るばかりでなく、うまくほめることも必要だと感じています。同じ「できない」だとしても、途中経過は合っているのに、最後だけ間違えていることもありますよね。そうした過程をきちんと理解してあげて、できているところを認めてあげると伸びていきます。
小池:緊張のせいなのか、びっくりするような間違いをすることがよくあります。私はよく「練習のときに本番と思って取り組みなさい、本番のときは練習と思って取り組みなさい」と声をかけるんです。普段の小テストほど真剣にやろうと。逆に本番のときは「自分がわからないなら、みんなわからないんだ」くらいの余裕と自信を持って臨んでもらえたらいいですね。
志望校合格への道筋は、家庭と塾との相性で決まる
――最後に、日能研の生徒に対するプロ家庭教師の役割についてお聞かせください。
長塚:さまざまなカリキュラムの塾がありますが、結局、中学受験に向けて学ぶ内容は同じなんですよね。志望校の合格に向けてどのような道筋をたどるかは、ご家庭と塾の相性によって決まるのだと思います。ハードなカリキュラムが合うタイプもいれば、友達と仲良く楽しく学ぶことに安心感を覚えるタイプもいる。後者のタイプに合った塾が、日能研なのではないかと。
塩津:だからこそ、家庭教師もご家庭の価値観やお子さんのタイプによって、指導方針を変えていかないといけないんですよね。日能研のゆったりしたカラーに合わせるのなら、あまりきびしく接するのではなく、少しずつ積み上げていこうと。小池先生も先程おっしゃっていましたね。
小池:そうですね。分厚いテキストのどこを押さえれば最大限の効果が生まれるか、的確な取捨選択ができるのも家庭教師ならではの強みだと考えています。ちょっとしたポイントを押さえるだけで、点数がぐっと変わりますから。
長塚:ご家庭での普段の接し方でも、少しずつ伸ばしていくことを意識してもらえるといいですね。以前、テストで手つかずだった問題に、今回は式を書けるようになった、というように。まだ、答えにたどり着いていなかったとしても、成長のひとつとして認めてあげる。ほめられたことが励みになれば、答えを導けるようになり、ケアレスミスも減って、自信もついていきます。そうしたサポートも、家庭教師のひとつの役割だと考えています。